皆さん、こんにちは。
中井由梨子です。
大義くんが闘病生活を送っていた時、大きな心の支えとなっていたのが愛来さんの存在でした。
私が初めて彼女とお会いしたのは、ちょうど5年前の5月でした。
「大義のことならいくらでもお話できます。まだまだ聞いてもらいたいことがあるんです」
初めて出会った時の愛来さんの言葉が、私の心を突き動かしました。
「私が大義のことを書こうと思っていました。だけど中井さんが現れてくれたから、お任せします。必ず書いてください」
映画公開に向けて、たくさんのメディアの方々から取材していただき、私も5年前に作っていた取材ノートなどを読み返す機会に恵まれました。
そしてあの頃、愛来さんが見せてくださった大義くんとの数々の思い出が、本や映画の礎になっていると強く感じました。
2021年の3月。
映画のクランクイン前にお会いした福本莉子さんの印象は、少しボーイッシュで炭酸水のように透明で爽やかな女性。
「原作を読みました」
私に感想を伝えてくれるまっすぐな眼差し。
あの日の愛来さんの瞳と被りました。
撮影が始まったある日、撮影が進行していたころのことです。
現場から離れた場所で作業をしていた私は、演出部だったまりんちゃんから電話を受けました。
「福本さんが中井さんとお話したいことがあるそうです」
驚いて電話を受けると、莉子さんは台本の1シーンで、原作と描き方が違うところがある。その意図を聞きたいと仰いました。
私がお話すると、とても真剣に言葉を聞き「分かりました、ありがとうございます」と静かに、けれどしっかりとした声で答えて電話を切りました。
電話を切った後、私はじんわりとした嬉しさに包まれていました。
本と真剣に向き合う俳優さんに演じていただけること。
作家にとって、何より嬉しいことです。
優しくて美しい。そして、しなやかな強さを持っている愛来さん。
莉子さんにも、同じ魅力を感じずにはいられませんでした。
保管していた資料の中から脚本の「検討稿」が出てきて、そのメモ欄には、秋山監督との本打ち合わせでのメモがびっしり書かれていました。
自分ではすっかり忘れてしまっていましたが、現在の完成稿ができるまでに、自分なりに格闘している様子が良く分かります。
5年前の取材メモには、愛来さんが教えてくれた「夢」のお話もメモしてありました。
大義さんが亡くなってから2週間ほど後のこと。
愛来さんは夢を見たそうです。
大義さんが笑っている夢でした。
「月を見て」
そう言われて目が覚めたそうです。
まだ夜中で、愛来さんは窓を開けて月を見上げました。
満月でした。
ピンクムーンと呼ばれる4月の満月。
見ると「幸せになる」と言われている月です。
幸せになってね。
大義くんがそう伝えたかったのかな。
そう話しながら、一緒に泣いたことも、思い出しました。
2017年5月のスケジュール帳を見返していて、私は手を止めました。
『5月26日。13時。大義くんのお家へ(お花を買う)』
5月26日。
私が初めて大義くんのお母様にお会いした日です。
あの日から4年後の5月26日。
幻冬舎さんから、文庫本の発売がスタートしました。
そして、あの日からちょうど5年後の5月26日。
私達は日比谷の劇場で、映画の公開前夜祭を迎えます。
出会いは偶然ではなく、すべて必然である。
私はそう信じています。
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