『20歳のソウル』Production Notes

2022.05.18
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愛来さんと福本莉子さん

皆さん、こんにちは。

中井由梨子です。

 

 

大義くんが闘病生活を送っていた時、大きな心の支えとなっていたのが愛来さんの存在でした。

私が初めて彼女とお会いしたのは、ちょうど5年前の5月でした。

 

 

「大義のことならいくらでもお話できます。まだまだ聞いてもらいたいことがあるんです」

 

 

初めて出会った時の愛来さんの言葉が、私の心を突き動かしました。

 

「私が大義のことを書こうと思っていました。だけど中井さんが現れてくれたから、お任せします。必ず書いてください」

 

映画公開に向けて、たくさんのメディアの方々から取材していただき、私も5年前に作っていた取材ノートなどを読み返す機会に恵まれました。

 

そしてあの頃、愛来さんが見せてくださった大義くんとの数々の思い出が、本や映画の礎になっていると強く感じました。

 

 

 

2021年の3月。

 

映画のクランクイン前にお会いした福本莉子さんの印象は、少しボーイッシュで炭酸水のように透明で爽やかな女性。

 

「原作を読みました」

 

私に感想を伝えてくれるまっすぐな眼差し。

 

あの日の愛来さんの瞳と被りました。

 

 

撮影が始まったある日、撮影が進行していたころのことです。

 

現場から離れた場所で作業をしていた私は、演出部だったまりんちゃんから電話を受けました。

 

 

「福本さんが中井さんとお話したいことがあるそうです」

 

 

驚いて電話を受けると、莉子さんは台本の1シーンで、原作と描き方が違うところがある。その意図を聞きたいと仰いました。

 

私がお話すると、とても真剣に言葉を聞き「分かりました、ありがとうございます」と静かに、けれどしっかりとした声で答えて電話を切りました。

 

電話を切った後、私はじんわりとした嬉しさに包まれていました。

 

本と真剣に向き合う俳優さんに演じていただけること。

作家にとって、何より嬉しいことです。

 

 

優しくて美しい。そして、しなやかな強さを持っている愛来さん。

莉子さんにも、同じ魅力を感じずにはいられませんでした。

 

 

 

保管していた資料の中から脚本の「検討稿」が出てきて、そのメモ欄には、秋山監督との本打ち合わせでのメモがびっしり書かれていました。

 

自分ではすっかり忘れてしまっていましたが、現在の完成稿ができるまでに、自分なりに格闘している様子が良く分かります。

 

 

 

5年前の取材メモには、愛来さんが教えてくれた「夢」のお話もメモしてありました。

 

大義さんが亡くなってから2週間ほど後のこと。

 

愛来さんは夢を見たそうです。

大義さんが笑っている夢でした。

 

 

「月を見て」

 

 

そう言われて目が覚めたそうです。

まだ夜中で、愛来さんは窓を開けて月を見上げました。

 

満月でした。

ピンクムーンと呼ばれる4月の満月。

見ると「幸せになる」と言われている月です。

 

幸せになってね。

大義くんがそう伝えたかったのかな。

 

そう話しながら、一緒に泣いたことも、思い出しました。

 

 

2017年5月のスケジュール帳を見返していて、私は手を止めました。

 

『5月26日。13時。大義くんのお家へ(お花を買う)』

 

5月26日。

私が初めて大義くんのお母様にお会いした日です。

 

あの日から4年後の5月26日。

幻冬舎さんから、文庫本の発売がスタートしました。

 

そして、あの日からちょうど5年後の5月26日。

私達は日比谷の劇場で、映画の公開前夜祭を迎えます。

 

 

 

出会いは偶然ではなく、すべて必然である。

私はそう信じています。

 

 

 

 

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