『20歳のソウル』Production Notes

アーカイブ:2022年7月
2022.07.31
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皆さん、こんにちは。

中井由梨子です。

10週間も上映を続けてくださった大阪のTOHOシネマズ梅田様など、多くの劇場様も上映を終えていますが、また新たに始まったり、続けてくださっているところもたくさんあります!市船野球部が甲子園を決めて、改めてイチフナの魅力を知ってくださった方々のために、まだまだたくさんの方の心に大義くんを届けていきたい…!

これからも「20歳のソウル」チーム、前進を続けます。

このプロダクションノートも本日で終了予定だったのですが、市船が甲子園に出場を決めたことで終わってはいられない!と思い、可能な限り、甲子園レポートも含めて更新していきたいと思います☆

しかし今日をひとつの区切りとして、これまで大義くんプロジェクトを率いてこられた秋山純監督について、お話させてください。

すでに数々のインタビューでもお答えしていますが、この5年間の始まりの日、最初に大義くんと出会ったのは私ではなく、秋山監督です。朝日新聞の岩崎記者が書いた「窓」という記事の中の告別式の動画を私に送って来られたことがきっかけでした。

秋山監督は、某テレビ局に33年勤務し、スポーツ、ドキュメント、ドラマと数々の現場を渡り歩いてこられ、その経歴は実に華々しいです。中でも高校野球番組のプロデューサーとして、球児たちを見つめ続けた経験は秋山監督の今を形作る重要な一部になっている気がします。多くのスポーツ、特に野球にはとても精通していて、ゲーム流れの予想が怖いくらいに当たります(笑)

「20歳のソウル」の野球シーンがあんなにも臨場感たっぷりに仕上がっているのは、この監督の野球愛に拠るものだと私は考えています。

 

これは中井の主観ですが、秋山監督は非常に頭の回転が速く、IQの高い方(笑)。

速読術に長けており、一日に3冊の文庫本を平気で読み切ってしまったり。数々のテレビドラマ、映画を集中的に何十本も観たり。(好きな監督はタランティーノだそう)

とにかく勉強熱心で情報収集の上手い方です。

 

秋山監督の現場は、何度か助監督としても入らせていただいたことがあり、撮影方法を間近で見てきました。「撮るスピードが速い」と皆が言いますし、実際本当に速くて、次々にシーンを撮影していきますので、一日に何十シーンも撮影することが多々あります。

(これまでの最高記録は一日に37シーン撮影でした。※映画「朝陽が昇るまで待って」)

 

当然、ついていくスタッフたちはフル回転です。

まだ次のシーンの用意ができていないのに、撮影クルーたちが到着してしまう。常に時間との闘い。けれど、雑なものを出すわけにはいかない。だから足りない部分は他のセクションのスタッフが補い間に合わせる。そうやって秋山組は常に全員野球で撮影に挑んできました。

 

どうしてこんなに速いんだろう?また、速く撮らなければならないんだろう?私は傍で見つめながらずっと答えを探しつづけていました。

 

いくつかのアンサーが見つかりました。

 

「演じるな、存在せよ」をモットーとする秋山監督にとって、俳優さんのお芝居の鮮度はとても重要です。ですから、殆どと言って良いほど1テイク目を採用し、何度も繰り返して同じシーンを撮影することはあまりありません。俳優という職業を信頼し、作家・脚本家という仕事をリスペクトしている。だから現場で長々と話し合ったり、本を修正したりすることもめったにありません。それらはすべて撮影前に済ませてくる、というのが監督の信条です。

二つ目は、天気や空の色の保存。

うつろう自然光、一瞬しか現れない景色を捉えること。「晴れの日には晴れの絵を、雨の日には雨の絵を」というポリシーのもと、自然に逆らわない撮影を行うためにはスピードは欠かせません。CG技術に頼れば人工で美しい風景は作れますが、莫大な予算と時間も要しますし、自然が作り出す芸術をカメラに収めてスクリーンに広げて感動を伝えたい。そういう想いがあります。

 

さらに三つ目。これは意外かと思われるかもしれませんが、「予算」です。秋山監督はクリエイターの面も持ちつつ、実はプロデューサーとしてのキャリアも分厚く、頭の中が常に数字で溢れているような人。もともと数学博士と揶揄されたほどの理数系で、演出もすべて物理学で行っている、といつも仰います。つまり、「時は金なり」。時間をかければその分予算も膨れ上がっていく。特に「20歳のソウル」の撮影時は、コロナ旋風の中、緊急事態宣言が何度も発令されていた頃です。撮影がストップしてしまえば、その分費用も膨らみ、仕上がらない事態も招きかねません。

 

監督にとって「時間」との闘いは、作品生命との闘いでもあるのです。

 

以前、秋山監督がSNSなどでお配りしていた「演出ノート」をお読みになった方ならお分かりかもしれませんが、この「20歳のソウル」は時間の描き方がひとつの大きな主題となっています。時間の流れ、速さは主観的なものであって決して絶対的ではない、という視点。監督によって仕掛けられた数々のトリックによって、私達は大義くんの人生に没入し、また自分の人生と照らし合わせて涙することができるのかもしれません。

そんな秋山監督の芸術性、人間性に惹かれて集まってくださった豪華なキャストの皆様と、

ハイレベルな技術を持つ撮影スタッフ。そして「20歳のソウル」に想いを寄せてくださる、皆様に出会えたことは、私にとっても、きっと大義くんにとっても大きな宝物な気がします。

 

「20歳のソウル」は、これから次のステージへと向かいます。

私もプロダクションノートはいったん筆を置き、深呼吸して、大義くんと一緒に新しい道のりを歩いていきたいと思います。

 

原作をお読みでない方にはぜひ一度手にとっていただきたいですし、「斗真の物語」の世界も広げていきます。これからもどうぞよろしくお願いします!

 

 

皆様、映画と共に、このノートを愛してくださり、本当にありがとうございます。

秋山純

宮下涼太

中井由梨子

 

 

ただいま、絶賛上映中「20歳のソウル」引き続きお待ちしております!

どうぞ劇場へ足をお運びください!

 

2022.07.28
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皆さん、こんにちは。

中井由梨子です。

 

昨日27日、千葉ZOZOマリンスタジアムにて高校野球千葉大会決勝が行われました。

 

 

市立船橋 対 木更津総合

 

26日の因縁対決の日、雨と風が吹き荒れ、10時開始から1時間、2時間…と待って、結果は順延。スタンドで待ち続けた私たちも「え~!」と声を上げましたが、両校の選手たちは粛々と今日のために準備をし、快晴の空の下、決勝が行われました。

 

結果は、もう皆様もよくご存知かと思います。

 

市立船橋高校野球部が、15年ぶりの甲子園出場を決めました!!!

 

 

素晴らしいです。

まさか、映画公開の年に、甲子園に行けるなんて。

当初「そうなったら凄いね」と冗談まじりに話していたことが、まさか現実となるなんて。

市船soulの音色が響き渡るたびに得点が入り、終始鳥肌が立っていました。

 

私が2017年に取材を始めた時、市船は準々決勝で木更津総合高校とあたり、7回コールドで敗退しました。その時の、野球部、吹部、ダンス部の呆然とした表情、涙、肩を落として帰る姿が忘れられません。

木更津総合は、言わずと知れた強豪校。昨日の試合も、得点されてもすぐに必ず巻き返し、常にプレッシャーのかかる、圧巻の試合展開でした。

木更津総合高校野球部の皆様の想い、ナイスプレーに力一杯の拍手を送ります。

 

けれど…今年は。

市船soulを甲子園で聞きたかった。

 

本当に、本当におめでとうございます!!!

 

スタンドには、浅野大義くんのお母様、桂子さんとおじい様の忠義さん、妹の千鶴さん、元恋人だった愛来さん、そして高橋健一先生もいらしていました。

大義くんのお母様は、「声が出せないから」と市船soulの掛け声団扇を手作りしての参戦!凄いです。

映画の中で、尾野真千子さんが演じたお母様の応援のシーンで、市船soulに合わせて踊りながら声援を送るところがあり、「本当にあんなに凄い応援するんですか?」と聞かれたこともあるのですが、桂子さんは本当に、あそこまでやります(笑)昨日も炎天下の中、ずっと踊りまくっていらして、私のほうがギブアップするほどでした……。

 

妹の千鶴さんは、大義くんのトロンボーン「ロナウド」をスタンドに連れてきていました。

そのロナウドを、大義くんの後輩であり、今は副顧問の中島咲紀先生が8回表、2アウトから吹くことになり、その光景を目にした私はグッと胸に迫るものがありました。

 

ロナウドの音色が、6年ぶりにスタンドに響きました。

 

映画を飛び越えて、現実にこれほどのドラマを作ってしまう市船と、大義くん。

このドラマがどこまで続くのか、私もまだまだ追いかけていきたいと思います!

 

次は甲子園です!!!

 

 

そして、毎週発信しているスピンオフ「斗真の物語」④も更新いたしました。

 

『20歳のソウル』第一稿をもとにした佐伯斗真のスピンオフで、映画用に作った斗真の裏設定を元に描いたストーリーですので、こちらの小説に登場する人物・エピソードは、中井由梨子が創作した架空の人物・物語であり、実在の人物、市船とは全く関係のないフィクションです。

 

最近は、大義くんなのか神尾楓珠さんなのか、斗真なのか佐野晶哉さんなのか、どちらか分からないくらいに混ざった人物としてインスピレーションをもらって、楽しんで書いています。皆様にも楽しんでいただけたら幸いです。そして、甲子園へ向かう夏、まだまだ映画の上映は続きます。

 

どうぞ劇場へ足をお運びください!

ただいま、絶賛上映中「20歳のソウル」引き続き劇場でお待ちしております!

 

 

2022.07.25
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皆さん、こんにちは。

中井由梨子です。

昨日24日、千葉ZOZOマリンスタジアムにて(映画の撮影が行われた茜浜の近くです!)高校野球千葉大会準決勝が行われました。

 

市立船橋 対 拓大紅陵

 

秋山純監督、制作担当だった俳優の松谷鷹也と共に、私もスタンドで応援しました。日曜日ということもあって、入場まで30分という長蛇の列!なんとか試合開始に間に合いました。もちろん、私は市船に全力応援だったのですが、拓大紅陵も、本当に強くて良いチーム!吹奏楽部をはじめとする応援席の迫力。

3時間以上の接戦が繰り広げられました!

 

大義くんと一緒に祈って、喜んで、ドキドキして、手に汗握って…の3時間。

暑さより心の緊張のほうが勝っていて、試合終了間際の抜きつ抜かれつの攻防は本当に興奮しました。

両校、素晴らしいプレー。

そして、鳴り響く市船のチャンステーマ。

6年前の準決勝、手術後の大義くんがトロンボーンを携え、市船のジャージを来て応援に参加し、力一杯吹いた「市船soul」。その時も選手たちの背中を押した音色は決して色褪せることなく、私達の心を揺さぶり続けてくれました。

市船soulで逆転!(市船SOUL’s【公式】Twitterより動画見れます!ここをクリック)

結果は、市船の勝利。決勝進出となりました!

おめでとう、市船。

拓大紅陵の野球部の皆さん、素晴らしい演奏でスタジアムを湧かせた吹奏楽部の皆さん、応援団の皆さん。ナイスゲームでした。本当に、凄かった。

 

いよいよ甲子園まであと一つ。

 

 

 

決勝は、7月26日火曜日。ZOZOマリンスタジアムにて行われます。

 

 

なんと。

 

 

6年前の7月26日火曜日。

 

ZOZOマリンスタジアムにて、決勝戦が行われました。

 

市立船橋 対 木更津総合

 

この試合に、大義くんはやってきてトロンボーンを演奏しました。

生前の大義くんにとって最後の「市船soul」の演奏でした。

 

今年、まったく同じ日に、同じ場所で、同じカードで。

しかも、同じ赤ジャの代。

 

6年前のリベンジをかけて。

今年こそ。甲子園へ行こう、大義くん!

皆さん、どうか一緒に応援してください。

 

ただいま、絶賛上映中「20歳のソウル」引き続き劇場でお待ちしております!

 

2022.07.21
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皆さん、こんにちは。

中井由梨子です。

 

金曜日からは9週目!

本日、市船野球部も第5試合です!少しでも長く「市船soul」が流れ続けて欲しい夏。顔晴れ、市船!!

 

現在、公開中の映画館は下記です。(秋山純監督のblogから情報拝借させていただきます)

 

TOHOシネマズ梅田

TOHOシネマズららぽーと船橋

TOHOシネマズ八千代緑が丘

TOHOシネマズ流山おおたかの森

TOHOシネマズ市川コルトンプラザ

TOHOシネマズ市原

USシネマ千葉ニュータウン

別府ブルーバード劇場

函館シネマアイリス

ムービーオンやまがた

 

東京都 cinema neco

神奈川県 あつぎのえいがかん Kiki

長野県 飯田トキワ劇場

愛知県 刈谷日劇

熊本県 本渡第一映劇

大分県 玉津東天紅

 

また、海外映画祭への出品・ノミネートも始まっています!

 

第18回済川国際音楽&映画祭 – インターナショナルコンペティション 2022 – アジア映画祭 (asianfilmfestivals.com)

 

 

さて、先週連載を始めた「斗真の物語」。

映画の脚本の裏設定の部分を中心に、小説として書き下ろしています。第三回目を更新しました。ご興味のある方、ぜひご一読ください!

 

こちらはあくまで映画の設定上創作した、完全なるフィクションです。

こちらの小説に登場する人物・エピソードは、中井由梨子が創作した架空の人物・物語であり、実在の人物、市船とは全く関係はありません。

ですので、この公式プロダクションノートではなく、中井個人のnoteにてお楽しみいただければと思います。

 

もう一つの「20歳のソウル」~斗真の物語~③|モザイク東京 mosaique-Tokyo|note

 

まもなく、この公式プロダクションノートも終了となります。

長い間、皆様に読んでいただけて本当にありがとうございました。

最近見つけてくださった方、ぜひアーカイブ遡って読んでいただければ嬉しいです!

ただいま、絶賛上映中「20歳のソウル」引き続き劇場でお待ちしております!

 

2022.07.14
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皆さん、こんにちは。

中井由梨子です。

 

5月27日の公開以来、ずっと上映を続けてくださったTOHOシネマズ日本橋様、渋谷HUMAXシネマ様がいよいよ本日で上映終了となります!7週間、本当にありがとうございました!

8週目に突入!の映画館は下記です。(秋山純監督のblogから情報拝借させていただきます)

TOHOシネマズ梅田

TOHOシネマズららぽーと船橋

TOHOシネマズ八千代緑が丘

TOHOシネマズ流山おおたかの森

TOHOシネマズ市川コルトンプラザ

TOHOシネマズ市原

USシネマ千葉ニュータウン

新たにスタートしている映画館は、

別府ブルーバード劇場

函館シネマアイリス

ムービーオンやまがた

東京都 cinema neco

神奈川県 あつぎのえいがかん Kiki

長野県 飯田トキワ劇場

愛知県 刈谷日劇

熊本県 本渡第一映劇

大分県 玉津東天紅

 

たくさんの劇場様で上映いただけること、ほんとうに嬉しいです!大義くんの旅はまだまだ続きます!どうぞ皆様、何度でも劇場へお越しください!

甲子園夏の大会も始まっています!初戦を突破した市船野球部。スタンドでは「市船soul」が鳴り響きましたね!御覧になった方は、映画は、本物の応援そのままだということがお分かりになるはずです。本日14日、三回戦を迎えます。顔晴れ、市船!

 

さて、先週連載を始めた「斗真の物語」。映画の脚本の裏設定の部分を中心に、小説として書き下ろしています。第二回目を更新しました。ご興味のある方、ぜひご一読ください!

 

もうひとつの「20歳のソウル」~斗真の物語~②|モザイク東京 mosaique-Tokyo|note

 

こちらはあくまで映画の設定上創作した、完全なるフィクションです。こちらの小説に登場する人物・エピソードは、中井由梨子が創作した架空の人物・物語であり、実在の人物、市船とは全く関係はありません。ですので、この公式プロダクションノートではなく、中井個人のnoteにてお楽しみいただければと思います。

 

まもなく、この公式プロダクションノートも終了となります。

長い間、皆様に読んでいただけて本当にありがとうございました。

最近見つけてくださった方、ぜひアーカイブ遡って読んでいただければ嬉しいです!

 

ただいま、絶賛上映中「20歳のソウル」引き続き劇場でお待ちしております!

 

2022.07.07
最新情報

皆さん、こんにちは。

中井由梨子です。

公開から7週目となりました。現在、下記の劇場様が上映してくださっています!また、別府ブルーバード劇場では、7月9日18時10分~、7月10日10時30分~の2回にわたり、秋山純監督が舞台挨拶を行います!近隣の方、ぜひこの貴重な機会をお見逃しなく!

秋山純監督のblogから情報拝借させていただきます。

 

(東京)

渋谷ヒューマックスシネマ

TOHOシネマズ日本橋

(大阪)

TOHOシネマズ梅田

(千葉)

TOHOシネマズららぽーと船橋

TOHOシネマズ八千代緑が丘

TOHOシネマズ流山おおたかの森

TOHOシネマズ柏

TOHOシネマズ市川コルトンプラザ

TOHOシネマズ市原

イオンシネマ市川妙典

USシネマ木更津

USシネマ千葉ニュータウン

(鳥取)

倉吉シネマエポック

 

ありがとうございます!まだまだ大義くんを皆さんに知っていただく機会を続けてくださっていることにただ、ただ感謝…!そして新たに上映が始まる劇場様は下記です。

 

(北海道)

シネマアイリス 7月8日~

(山形県)

MOVIE  ON 山形 7月8日~

(熊本県)

本渡第一映劇  8月20日~

(大分県)

別府ブルーバード劇場 7月8日~

※秋山純監督の舞台挨拶があります!!

(愛知県)

刈谷日劇 7月22日~

 

さて、いよいよ甲子園夏の大会の季節がやってきました。市船野球部の第一試合は7月12日!この映画立ち上げ当初からの願い「スタンドでもスクリーンでも市船soul」という夢を実現してくださったことに感謝して、この映画のサイドストーリーとして作っていた、佐伯斗真の物語を綴っていきたいと思っています。

映画を御覧になった方ならお分かりかと思いますが、斗真(佐野晶哉さん)は中井の創作した登場人物で、そのモデルとなった方は複数いらっしゃいます。その存在を映画の中に表現するにあたり、自分なりに裏設定をたくさん考えていました。実は映画の脚本の第一稿は、その裏設定もすべて描いていたため、なんと総尺4時間越えの長大作に!?(笑)

「いくらなんでも長すぎる」と秋山監督から指摘され、少しずつシェイプアップしていきました。

今回は、その裏設定の部分を中心に、小説として書き下ろしていけたらと思っています。ただし、こちらはあくまで映画の設定上創作した、完全なるフィクションです。こちらの小説に登場する人物・エピソードは、中井由梨子が創作した架空の人物・物語であり、実在の人物、市船とは全く関係はありません。

ですので、この公式プロダクションノートではなく、中井個人のnoteにてお楽しみいただければと思います。

「もう一つの20歳のソウル」① note

 

まもなく、この公式プロダクションノートも終了となります。長い間、皆様に読んでいただけて本当にありがとうございました。最近見つけてくださった方、ぜひアーカイブ遡って読んでいただければ嬉しいです。

ただいま、絶賛上映中「20歳のソウル」引き続き劇場でお待ちしております!

 

2022.07.02
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皆さん、こんにちは。

中井由梨子です。

 

7月。全国公開から6週目を迎えますが、まだ多くの劇場様が上映を続けてくださっています!いよいよ今月は夏の選抜甲子園の予選が始まります。『市船soul』がスタンドに鳴り響く夏。この猛暑が少し心配ではありますが、私も聴きに行きたいと思っています!

さて、プロダクションノートも、もう少し続きます!

今日は佐伯斗真(佐野晶哉さん)のモデルとなったIさん、田崎洋一(若林慈英さん)のモデルとなったTさんへ取材をした2017年の冬の記録です。

 

※※※

「兄弟姉妹が一気に三十人できた感覚です」

Iさんは言います。近ければ近いほど、摩擦も起きやすくなっていきます。その度にミーティングを重ね、嫌な自分と向き合う日々。「正直きつかったです」と苦笑いします。

朝七時頃からは朝練といって、基本的に自主練習の時間です。しかし帰宅するのが遅いので朝に練習するというのはなかなか難しかったとか。一度、演奏会前に男声コーラスの練習を朝やろうとした時もありましたが、毎日誰かが欠けている。全員揃ったためしがないとTさんも笑います。今思えば、渦中の時には苦しいことのほうが多かった部活ですが、終わってみるとやはり市船でなければできない経験をたくさんさせてもらえた、やってよかったという気持ちのほうが大きいといいます。今では考えられないけれど、あんなに音楽に没頭した(させてもらった)時間はないんじゃないかと。

 

高橋先生は、赤ジャの男部は問題児揃いと仰っていますが、具体的にどういう感じだったのかと聞きますと、「とにかくやる気がなかった」「反抗していた」という答え。それもそのはずで、そもそも楽器がやりたくて入った吹奏楽部だというのに、市船は「歌って踊れる吹奏楽部」。部活ノート、ミーティング、YOSAKOI、吹劇…。「正直、来る場所を間違えたと最初の一年間は本気で思っていました」とIさん。そんな反発から、楽器を演奏する以外のやるべきことがあまりにもたくさんあってそれらが納得できない時には「くだらない」「やりたくない」と態度に表す。言葉に出して反抗する。先輩の作った楽譜が間違っていた場合には「これちょっとおかしくないですか」と指摘…確かに、先輩からすれば生意気と捉えられることでしょう。その度に先輩は嫌な顔をし、先生からは叱られる、だから余計に反発する…その悪循環を繰り返していたそうです。市船は先輩と後輩の上下関係が厳しくありません。むしろ先輩のほうが謙虚だったりします。その環境も反抗に拍車をかけたところもあったそうです。

ただし、大義くんは別でした。前述のように大義くんにとって高橋先生は「雲の上の人」だったわけで、反抗などとんでもなく、一風変わったイベントや練習にもヘラっと笑いながら対応していた様子が想像できます。

大義くんは、後輩たちから本当に慕われていました。カリスマ性もあった、とIさんもTさんも言います。(それがただのカッコつけだと同期たちは見抜いてしまう時もあったようですが)いい意味でも悪い意味でも、自分の色が強い人だったという印象だそうです。

Iさんは同じ作曲をやっているせいか、少しライバル心のような、そこはかとない距離をおいて接することのほうが多かったそうです。とはいえ、「同じ釜の飯を食う」仲の男部は基本的にいつもふざけ合っていたとか。大義くんはいつも目新しい物をよく持っていたといいます。新しいデザインのスニーカーやサングラスもなぜか持っていたし、iPhoneをいち早く買ったのも大義くんでした。特注で作った『市船吹奏楽部』の文字が入ったiPhoneケースをしていて「一体あれはどこで手に入れたんだ」というものばかり。

お二人から見れば大義くんはすこしちゃっかり者でした。ある時は、マーチングの練習で、大義くんは「腰が痛い」と言って練習を抜けて休んだことがありました。その後、今度はYOSAKOIの練習をすることになった時、旗手の大義くんが休んでいるのでどうしたらいいかと話をしているとひょっこり部室から出てきて嬉々として旗を振っていたそうです。先生から怒られたり「下手」と言われてもどこかケロっとしていて、激しく落ち込んだり悔しがったりするところを見せなかった大義くんですが、一度だけ、落ち込んだところを見たことがあるとIさんは教えてくださいました。

「一年生の定期演奏会で、大義は歌のパートを任されていました。そこはとても目立つポジションで、誰もがなりたいと思う役。一年生で抜擢されて誇らしかったと思うんですが、しかし本番直前に交代させられちゃったんです。本番の日、舞台裏でうなだれて座っているところを見かけた時、辛いだろうな…て思いましたね。でも落ち込んでいるところを見たのはその時だけかもしれない」

 

お話しているうちに、次から次へと思い出が湧いてくるのか「あんなこともあった」「こんなこともあった」と話題が尽きません。お二人に『市船soul』について聞いてみると、「あれは凄くいいと思う」と口を揃えます。しかし、実際に大義くんに声をかけたことはありませんでした。自分たちよりも運動部や野球ファンや、他の周りの人々のほうが評価が高かったので、わざわざ自分たちが褒めなくてもいいと思えたと仰っていますが、やはり仲間同士の照れもあったのでしょうか。Iさんは今振り返ってこう話してくださいました。

「かっこいい曲。ソウルは憶えやすいんですよ。全然難しくない。それが最高だと思う。

これは大義の完全オリジナルだし、良いと思います」

Tさんもその意見に同調していました。

「あれは大義っぽいって言う感じもあるし、クオリティとしても高いから、伝統として吹き続けられると思う。正直「こんなの作れるんだ!」って感心しましたよ。大義が作ったものの中ですごく成功したものだと思う」

 

お二人とのお話も、長時間に及びました。私は、そんなお二人に聞いてみたいことがありました。今、大義くんの死をどう捉えているか、ということです。彼の死によって、自分の中で変わったことはないかと。お二人はしばらく沈黙しています。やがてTさんが言葉をゆっくり選ぶように話し始めました。

「この年でも死ぬ人っているんだなって改めて実感しました。ありふれてるけど、いざ親しい人だとその大きさを感じます。今、自分の人生を振り返ることはないですが、ずっと感じていることは、みんないつ死ぬか分からない、だったらいろんなことをやろうっていうこと。寿命や運命は決まっているものかもしれない。その決まっていることの中で、いろんな人のために役に立つことをしようと思いました。同世代で知っている人が死ぬってことはそういうものなんだと思いました。自分の命を他の人のために使わないといけない。自分にしかできないことをやろうと」

私は、「自分の命を他の人のために…」と言ったTさんの言葉が印象的でした。なぜそう思うのかとさらに問いますと、こう応えてくださいました。

「自分のためだけなら結局は自己満足です。結局、満たされない。大義が一貫してやろうとしていたことは、誰かのために曲を作ることだったから。俺も、誰かの心の中に残ることができたらいいなと思います」

私は頷きました。Iさんもその言葉をじっと聞いていて、そしてご自分の気持ちを語ってくださいました。

「いま、日常生活で深く思い出すことはないんです。でも、(作曲や編曲の)仕事が忙しすぎて、誰かに助けて欲しいと思う時、ふと大義のことを思い出します。大義がいたら頼めたんじゃないか、助けてくれと。一生忘れないです。自分だっていつかは死ぬんだし、死んだ時にまた会えたらと思いますよ」

Iさんは続けて仰いました。

「大義が亡くなったことで、とにかく誰にたいしても優しくしようと思いました。「なんであんなこと言ったんだ…」と思いたくない。今、実は思うんです。「もっと大義にしてあげられることがあったんじゃないか」とか、一言「あの曲良かったよ」と言ってあげればよかったとか…。だから、明日死んでも後悔しない立ち振る舞いをしないといけないと思います。取り返しのつかないことが、なるべくないようにしたいです。言葉も音楽と一緒で、一度音を出したらそれは取り消せない。

大義は人に優しかったです。こんな自分にも、いつも優しくしてくれてました。だから高校時代も上手く言ってたんだと思います。大義は寛容だったと思います。これも自分が死んだあとに、会ったら言いますが」

 

 

 

※※※

 

ただいま、絶賛上映中「20歳のソウル」引き続き劇場でお待ちしております!

 

※中井由梨子が『20歳のソウル』を書くにあたり取材した記録です。当時の様子が鮮明に書かれています。取材ノートのため、『20歳のソウル』に登場する人物以外の実名は伏せてあります。

 

©2022「20歳のソウル」製作委員会