「こんにちは~、大義の母です。遠いところすみません」
まるで大義くんの同級生を迎え入れるかのような気さくな笑顔で浅野さんは出迎えてくださいました。
その満面の微笑みに、映像で見た大義くんの笑顔が重なりました。
浅野さんは小柄で物腰も柔らかで、よく笑う方でした。
少なくとも私が想像していた悲しみにくれる母親像とは全く違います。
私は一気に緊張が溶けていくのを感じました。
大義くんを幼馴染のように思ったのと同様、浅野さんのことも昔から知っているような安心感を感じたのです。
私は浅野さんの先導で、お家にお邪魔させていただきました。その時には、雨はすでに止んでいました。
忠義さんのお家は広い日本家屋でした。和式の居間に大きな仏壇と、壁一面に大義くんの写真が飾ってありました。
仏壇の前には大義くんの似顔絵の周りにびっしりと書かれた寄せ書きがあります。
大義くんの写真は、大義くんが赤ちゃんのころ、子供のころ、高校時代までたくさん飾られていました。
私はお菓子とお花をお供えし、大義くんのお位牌の前で手を合わせました。
心の中で
「やっと会えましたね、ここまで招いてくれてありがとう。どうぞよろしくお願いします」
と話しかけました。
その時、お家には大義くんのおじいちゃん、おばあちゃんもいらっしゃって
お二人も浅野さんと同様、とてもにこやかに出迎えてくださいました。
仏壇のある和室から地続きでテラスがあり、そこに椅子とテーブルがありました。
その椅子に座らせていただき、浅野さんと、忠義さんと向かい合いました。
浅野さんは終始ニコニコと話しています。
「お線香あげてくださってありがとうございます」
と仰ったので
「いえ、こちらこそ」
と深く頭を下げました。
予想していたよりもずっと暖かく優しく迎え入れてくださったことに私はリラックスして、大義くんを初めて知った時のこと、高橋先生を三度訪問させていただいたことなどをお話しました。
そして、よろしければ大義くんについてお話を伺いたいとも申し上げました。
浅野さんは終始頷きながら私の話を聞いてくださっていました。
「高橋先生から、とても熱意のある方なのでぜひ、とご連絡をいただいておりますから大丈夫です。高橋先生が良いと仰る方でしたらこちらは何も不都合はありませんので」
と仰いました。先立ってお話をしておいてくださった先生に感謝すると共に、浅野さんと先生との信頼関係の深さを改めて感じました。
※※※
今思えば、懐かしいですが、こうやって取材ノートを思い返すと、本当に感慨深くなります。
5年たっても今も変わらないのは、桂子さんの明るい笑顔です。
その笑顔に支えられて、ここまでくることができました。
この『取材ノート』はこれからも少しずつ公開していきたいと思います。
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