『20歳のソウル』Production Notes

2022.06.24
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「誰も知らない取材ノート ~市船の象徴・斗真に出会うまで~」第十回

皆さん、こんにちは。

中井由梨子です。

 

昨夜は、前夜祭の行われた思い出のTOHOシネマズ日比谷でラストソウルを見届けてきました!たくさんのお客様が来てくださっていました。本当に嬉しかったですし、とても美しい映画館で4週間もかけていただいことに心から感謝します。ありがとうございました!そして、まだ上映は続きます!都内でも数か所の劇場様が上映を続けてくださいますので、まだまだ「20歳のソウル」「おかわりソウル」お願いします。

『誰も知らない取材ノート』の告別式の章、最後の部分です。原作にも映画にも描かれなかった、それぞれの「それから」の時間。ぜひ、共有してください。

 

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すべてが終わった後、ユナさんは号泣しました。思う存分泣きました。忠義さんの配慮で、市船生たちのために会食室で食事がふるまわれました。市船生たちは言葉少なのまま、涙の残ったまま、食事をしました。高橋先生は大義くんの車を見届けると、すぐに学校へと帰っていきました。「それじゃ」と何かを振り切るように手をあげて。

それから、164人の吹奏楽生たちは自分たちの日常へ、人生へと戻っていきました。

Aさんは、今でも緊張する場面になると、空を見上げるそうです。そこに太陽が輝いているのを見ると「大義が見守ってくれている」と安心する、と話してくれました。

ユナさんは、ふと大義くんのLINEを見返し、LINEの電話マークを押しそうになります。卒業後も「ユナ~、あのさ~」と電話してきては恋愛相談をしてきた大義くん。反対に何か困ったことがあると「大義~」と連絡すると必ず「何?」とすぐに返事を返してきてくれたことを思い出します。大義がいない、ということが、時折とても寂しくなるときがあります。

Yさんは、大義くんが最後の入院をする前、「渋谷まで車でドライブしない?」と言われたことを時折思い出します。その時「いいよ」と言いながら、途中で車を出すのが面倒になり結局ドライブはやめて地元で食事をしました。しかし、それが元気だった大義くんとの最後の思い出となりました。たったそれだけのことが、今もずっと心にひっかかっています。あの時。なぜ車を出すくらいしてやれなかったんだろう。どうして面倒になったんだろう。だから、今は目の前にいる人を大切にしたい、そう思っています。

Nさんは、ここぞという場面では、大義くんといつも本番前にやっていたおまじないを思い出します。拳で心臓をトン!と叩く気合入れ。演奏中で間違ったら、チラッと自分を見て「間違ったな?」と合図を送ってきた大義くん。今も力が欲しい時、自分で自分の心臓をトン!と叩きます。間違ったらまた大義くんに「おい」って言われてしまうから、と。

 

Iさんは、大義くんの戒名が素晴らしいと思いました。

「大奏院響応日義信士」

大、奏、響。この名前なら、どこの世界に生まれ変わっても音楽をやる人だとすぐ分かる、だからどこの世界にいっても彼なら大丈夫。そう思っています。

 

Sさんは、満月を見ると大義くんを思い出します。大義くんが亡くなった日、きれいな満月を見上げていたから。今でも時々月を見上げると大義くんを思い出します。見守ってくれていると感じます。「頑張れよ」と言われている気がします。

 

高橋先生は、忠義さんが作った『市船soul 大義』という文字が入ったオリジナルのタオルを大事に持っています。コンクールのステージで、先生はそのタオルを譜面台に置きました。「大義、頼むな」と心で念じました。指揮棒をふり、演奏が始まりました。その瞬間、先生は、大義くんの姿をはっきりと見ました。彼は三年生の時、いつも一番後列の真ん中の席にいました。その場所に、はっきりと大義くんの姿が見えたのです。みんなと一緒にトロンボーンを吹いていました。先生は胸が熱くなりました。

 

葬儀を担当した木村さんは、全力で大義くんの葬儀を終えて、明らかに自分の価値観が変わっているのが分かりました。「絶対無理だ」と思っていた164人での演奏は、見事に成功しました。全てが終わり、時計を見ると予定の時刻通り。高橋先生をはじめ、吹奏楽生たちがこの演奏の目的を誰一人勘違いすることなく、規律のとれた行動をした結果でした。木村さんはそれまで、自分の仕事のモットーを「リスクを最小限におさえて円滑におさめる」ことだと信じていました。失敗すると取り返しがつかないことだからです。しかし、大義くんの告別式を経て、モットーは「最大限のリスクを冒しても、人の心に寄り添う」ことに変わりました。たった一度の葬儀だからこそ、取り返しがつかないからこそ、全力で人の想いに応えることが、自分の役目だと実感したのだといいます。

「五十を過ぎて、二十歳の若者に教えられました」

 

そう言った木村さんの笑顔を見て、私は高橋先生の言葉を借りて、心の中で大義くんに言いました。

大義。

大きい男だ、君は。

 

 

 

 

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ただいま、絶賛上映中「20歳のソウル」引き続き劇場でお待ちしております!

 

※中井由梨子が『20歳のソウル』を書くにあたり取材した記録です。当時の様子が鮮明に書かれています。取材ノートのため、『20歳のソウル』に登場する人物以外の実名は伏せてあります。

 

©2022「20歳のソウル」製作委員会